常陸國總社宮

神職日記|4人が語る、神様と暮らす日々。

18 嘉良寿理貴船神社 かもしれない神社

7月、總社宮でお祭りの準備が本格的に始まるころ、嘉良寿理貴船神社の例祭にご奉仕しました。

応永17(1410)年7月の創建で御祭神は罔象女神と宇迦魂命。

罔象女神は「みず(つ)はのめのみこと」と読みます。その名の通り水の神様。『記紀神話』にも登場する神様で、神生み神話で伊邪那美神(伊弉冉尊)が火の神を生み、崩御する際に生まれた神であることが記されています。『古事記』には伊邪那美神が火の神を生むにあたり病み臥せった時に「尿に成りませる神の名は彌都波能賣神」として登場し、伊邪那美神が象徴する「大地」からの湧き水を指す神ではないかとも言われています。

宇迦魂命「うかのみたまのかみ」は『古事記』では須佐之男命と大山津見神の娘の子として登場します。『日本書紀』では「倉稲魂命」の名で一書に登場し、国生みの後、伊弉諾尊が飢えた時に生まれたとされています。其の名を見ればわかる通り穀物をつかさどり、稲荷神として広く信仰されている神様です。稲作の神と水の神が一緒に祀られているんですね。現在でも周囲は農耕地帯ですが、昔から農業集落だったのかもしれません。

嘉良寿理貴船神社は里山の道端に突然鳥居が出現します。駐車場などはなく、周囲は杉林に囲まれています。この鳥居は石作りの明神鳥居系ですが、柱の上に台輪が付いている「台輪鳥居」です。

△例祭の為に建てられた旗竿。「奉納 貴船神社廣前」”ひろまえ”とは「大前」、「御前」などと同じくご神前を表す言葉です。平成8年の例祭の日の御奉納。

△島田久雄氏奉納の灯籠。島田さんは氏子総代さん。こちらも平成8年のものです 。話を聞くとどうやらこの神社には御神体がなかったため、宮司、氏子総代が京都の貴船神社本宮に参詣し、御神体を賜ったのがこの時期のようです。

△本殿は瓦葺の上屋に覆われています。

△この日は既に上屋の格子戸があいていますが、普段は閉められているようです。地域の神社にお伺いして祭典をするときは、氏子さん達が事前に祭典の準備をしてくださいます。

△流造木端葺の御本殿。

△ご神前に向かって右の向拝柱は稲荷神社の神紋として知られる抱き稲の紋が彫刻されています。左は不鮮明でよくわかりませんが、丸に三柏に見えます。柏の葉っぱは食物を盛る器に使われていたことから、これも宇迦魂命を表すものであると思われます。ちなみに京都の貴船神社の神紋は双葉葵です。

この社殿の様子を見ると、もともとはもっと曖昧な概念の農耕神を祀っていたのかもしれないですね。それが次第に農業に重要な稲作と水の名のある神を祀るようになり、次第に水神罔象女神が重要視されるようになったのかもしれませんが、想像の域を出るものではありません。逆に農業に重要な水分神を祀っていたところに後から農耕神が祀られるようになったのかも。社名と神紋の登場時期にもよると思いますが、嘉良寿理にはもう一つ稲荷神社があるので、もしかしたらそちらとも関係があるのかもしれないですね。

△柱全体にはひし形の中に卍の模様が入っています。神仏習合の名残かもしれません。

△滝の絵が彫刻されています。滝つぼの岩には水飛沫が飛び散っていますね。

二重円は何を表しているんでしょう。日輪でしょうか。

△コンクリートで地面に接着されていますが社の土台は大きな石を切り出したもののようです。

△境内には石岡市認定保存樹のスダジイの木もあります。

さて、この古くから農業集落だったかもしれない嘉良寿理で、農耕神を祀っていたかもしれないけど後に水神が重要視されたのかもしれない、けど水分の神のところに実りの神が合祀されたのかもしれない、神仏習合していたかもしれない(ちゃんと調べればかもしれないじゃなくなるかもしれない)貴船神社ですが、

同じ「貴船神社」という名前の社は全国に約二千社あり、そのすべてが京都鞍馬の貴船神社を本宮としています。京都貴船神社には本宮、結社、奥宮の三社があり、ホームページにはそれぞれの御祭神は高龗神、磐長姫命、高龗神と記されています。

あれ?罔象女神は?

塙保己一の編纂した国学書『群書類従』の巻二十二の五十二項に『二十二社註式』の写本があり「貴布祢 當社与丹生同之延喜神祇式云山城国愛宕郡貴布祢神社 水神罔象女神也」と記されています。

『群書類従』は国会図書館でデータを確認することができます。該当箇所はこちら→『群書類従』

本宮貴船神社には他にも本宮創建の伝説として、貴船大神が太古の丑の年丑の月丑の日に降臨したというものと、玉依姫命が黄船に乗って奥宮の場所に至り、祠を建てたというものが残っていますし、本宮貴船神社の社記には高龗神と闇龗神が「呼び名は違っても同じ神なり」と記されているそうです。

このように神社は一般的に一つの社にたくさんの神様が祀られていたり、同じ神様でも時代や性質によって呼び名が変わったり、後から合祀される神様や境内社にお祭りされる神様もいて、たった一つの神社でも長い時間の中でたくさんの神様が関わっています。ホームページでご祭神としてお名前が挙がっているのは主祭神のみであることも多かったりします。

この嘉良寿理貴船神社以外にもご祭神を罔象女神とする貴船神社は全国に鎮座しているようですので、是非お参りしてみたいですね。

 

【お知らせ】

11月の園遊会では海老澤宗香先生をお招きし、当宮の広間にてお茶会が催されます。これに橋本が龍笛を添えることとなりました(大いに不安である)。菊まつりをお楽しみいただけるよう、橋本も企んでおりますのでお気軽にご参加ください。

日時:11月5日16時

参加費:2000円

服装:自由

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