常陸國總社宮

神職日記|4人が語る、神様と暮らす日々。

繋ぐ、つながる

「神職日記、いつも楽しみに読んでいます」と若い女性にお声を掛けていただきました。実は昨年後半から、様々なことがあり自分のキャパシティを超え疲弊していた私にはこの言葉がとても沁みました。それでも節分と立春が過ぎ、少しずつ日が伸びて春を感じられるようになると心身が軽くなってくるのがわかります。単純に繁忙期を脱したということもありますが、季節の移ろいを理由にして心身を整え直すチャンスにできたらなと思います。

話は変わりますが、ある老舗和菓子店で車のトランクいっぱいにお菓子を買い、店主と何やら色々話してお礼を言って出ていく、という夢を見ました。前回の日記(京本政樹編)に続き、またもや夢の話からです。その後、起きがけにインスタグラムを覗いたら、なんとあと数日後にその和菓子店が閉業することが決まっていたことを知りました。

夫には「ついにそんな能力が…」とからかわれましたが、驚きもさることながら閉業の事実に、数回味わう機会があった程度だったにもかかわらずあの秀逸なお菓子がこの世からなくなることを思うと残念で無性に寂しくなりました。映画みたいにドラマティックな展開が起きないかと淡い空想もしましたが、程なくして閉業されました。

ずっとあるものが永遠に続くとは限らない。何十年と続いてきたお店も何百年と続いてきた伝統も永遠はないかもしれない。血縁者でも志ある他人でも、繋いでいく強い責任や決意、変化を恐れない柔軟な考え、たゆまぬ努力。そのすべてを重ねても続けることの難しさ。

そして、時代や権力や環境の変わりゆく中でも数百年数千年と繋いできた連続が神社の歴史です。

「中今」・なかいま。神職の私たちがいつも意識していることです。長い歴史の流れのなかで過去と未来の間、「今」を生きていること。神代からの先人たちが繋いできたものを受け継ぎ、未来へ繋ぐ継承者である自分は「今」をどう生きるか。命も文化も伝統も技術もしきたりも研究も、あらゆることにあてはまることではないでしょうか。単なるパズルのピースのように考えるととてもちっぽけな存在に思えますが、そのピースがなければ完成もない。どちらかというがっちり頑丈に、時にカラフルにパーツを組み合わせて上手く積み重ねていくレゴブロックのようかもしれません。

ただ歴史や伝統を守るだけでは廃れていくことを長い歴史の中から知っています。歴史を掘り下げ、現代に変化させた楽しみと価値を表現すること、変わってはいけないことを守りつつ、変わることを恐れずチャレンジして未来に誇りあるものを残すことが使命だと思っています。

建国記念の日はどうお過ごしでしたか?初代神武天皇が即位され、2682歳の日本のお誕生日です。(皇紀は西暦に660年を足すとわかりやすい。と教わります。)2月11日という建国の日については諸説ありますが、歴史上多くの危機がありながらも「日本」が存続している奇跡と自分のささやかな日常が今あることは紛れもない事実です。誰に感謝すればいいのか正直よくわからなくても、これまで繋いでくれた皆さんありがとうございます!という素直な気持ちになりませんか?

ほつれを直したり素敵な形を生み出したり、できるだけ丁寧に大切に「日本」を受け継いでいきたいものです。

 

アイキャッチ画像は陶芸家の塩屋良太さんの活動「ひとてま」プロジェクトのインスタレーション作品。人と人の繋がりである握手をするときにお互いの親指と人差し指の指間部に粘土をはさみ出来上がる、握手の形です。その「握手の痕跡」ひとつずつが波紋のようになっています。プロジェクトはインドネシアやイタリアでも行われています。

塩谷良太 https://www.shioya-ryota.com/

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