新年明けましておめでとうございます。
令和6年の干支「辰/龍」について考えてみると、いろいろと思い出されることがあります。
一番古い思い出といえば漫画『聖闘士星矢』におけるドラゴン紫龍でしょうか。『ストリートファイター』以降、「昇竜…」と言えば「昇竜拳」な世の中になりましたが、私はダンゼン「昇竜覇」派。すなわち紫龍の必殺技「廬山昇竜覇」に軍配を上げたい派であります。想いが嵩じて辰年の弟の名前に竜の字を入れ込むほど、小学生の私にとって龍はかっこいい存在でした。
1980年代はゲームで言うと『ドラゴンクエスト』の時代でしたが、私は何故か当初から『ファイナルファンタジー』に心惹かれていて、「竜王」の思い出よりも「竜騎士」や「ジャンプ」攻撃の記憶が強い。最強の召喚獣「バハムート」は、本来イスラームやキリスト教の伝承において巨大な魚や鯨であったようですが、テーブルトークRPG『ダンジョン&ドラゴンズ』以降、龍の一種として描かれるようになったように思われます。SQUAREの名作『ロマンシング・サガ2』に登場するレアな武器「龍槍ゲイ・ボルグ」もいい。ちなみにこの名前はケルト神話の英雄クー・フーリンの槍に由来します。
古代ギリシャの神話に登場し、鷲の上半身、ライオンの下半身を持つ幻獣グリフォンは龍ではないはずですが、私の中では龍的な存在。『機動警察パトレイバー』のライバル機「グリフォン」の黒い躯体や頭部の形状は、ブラックドラゴンを想像させます。まるで、『眠れる森の美女』の魔女マリフィセントが最後に変身する黒龍のようです。だからでしょうか、今は亡きライター・山口淳さんが雑誌『Pen』で連載していた「これは、欲しい。」で「グリフォーニ」というブランドのイタリア・シャツを見つけた時、大学生の私は遠くパルマのショップまで足を運びました。『Pen』時代に少しだけ淳さんとお仕事をご一緒できたことも良い思い出です。
『Pen』ではその後の私の龍イメージに大きな影響を与える特集を担当しました。2008年5月15日発売号『恐竜の世界へ。』です。同僚の女性編集者の企画だったのですが、どういうわけか私にお鉢が回ってきて、多分初めて第一特集のメインを担当したと記憶しています。少年時代に恐竜の図鑑をよく眺めていたものの、「恐竜少年」ではなかった私はほぼゼロからリサーチをスタート。しかし、その冒頭に現在、国立科学博物館の副館長を務めておられる真鍋真さんにお目にかかり、監修をお願いできたことで、どこに出してても恥ずかしくない恐竜特集になったと自負しています。海外のライターさん、コーディネーターさんに現地の恐竜学者の取材をお願いし、日本では今や世界的な恐竜学者として知られる小林快次さんに登場していただき、自分では丹波の化石発掘現場にカメラマンの殿村誠士さんと取材に出かけました。
その後、この特集は「Pen BOOKS」の一冊として2011年にムック化され、フリーになっていた私も追加ページの取材で声をかけていただき、紙面にも少し写り込んでいます。
と、龍の話をしながら当たり前のように恐竜の話にシフトしていました。そう、私にとって恐竜はまぎれもない「龍」の仲間なのです。
辰年の令和6年は恐竜の年にしたい、と前々から考えていました。それは私どもが管理する兼務神社「佐志能神社」の境内地に恐竜時代の地層があると知ってからです。「常陸風土記の丘」の裏手に「波付岩」という筑波山地域ジオパークのサイトがありますが、その周辺にジュラ紀~白亜紀の海の地層があるのです。
洋の東西で龍/ドラゴンの形状はさまざまですが、総じて大きな蛇やトカゲのような爬虫類に似た姿として描かれます。もはや原型は分からぬほど、龍に関する膨大な量の神話、伝承、物語が存在しています。もしかするとその始まりに、昔の人が見つけた恐竜の化石が一役買っていたのではないか、そんな想いがどこかにありました。すると、南方熊楠も同様のことを記していました。
辰年と恐竜。この繋がりをカタチにするには、ビジュアルにするのが一番。そこで私は恐竜の御朱印「古龍印」というアイデアに至りました。しかしただ、恐竜をデザインに取り入れるだけではつまらない。まだ恐竜化石が発見されていない常陸国≒茨城県において、いつか恐竜が発見されるかもしれないという機運を高めたい。そんな私の相談を今回も真鍋先生は快く聞いてくださり、茨城県自然博物館の若き古生物学者・加藤太一さんをご紹介いただきました。
博物館でお会いした加藤さんと波月岩周辺の地層について、佐志能神社と竜神山についてなどをお話したところ、同地の地層について様々な論文を示して詳しくご教示下さいました。現状で波月岩周辺から化石が発見されることは非常に難しいと思われるけれども、この地が恐竜時代は海であり、その地層が竜神山・佐志能神社に存在するのは間違いない。そして加藤さんはこの私の思いを具現化するために、博物館の展示などで古生物の専門的な復元画などを手がけているサイエンス・イラストレーターのツク之助さんをご紹介下さいました。
ツク之助さんは絵本『フトアゴちゃんのパーティ』の作者としても知られており、緻密な復元画からかわいらしいイラストまで幅広く描くことの出来る方。そんなツク之助さんに依頼して出来上がったのが「常陸國古龍(ヒタチノクニサウルス)」と「佐志能滄竜(サシノサウルス)」という2種類の「古龍印」です。
龍は世の中の誰もみたことのない想像上の幻獣です。しかし世界中の人々がイメージを共有している。そして実物の生きた恐竜を見たことのある人間はおらず、化石というハードエビデンスをもとに復元されたイメージを共有しています。つまり、龍も恐竜もその姿をカタチにしているのは人間の想像力なのです。想像力によって見えない物が形になる。これは神社と神様についても同様です。目に見えない力に神様を感じ、見えない神様に祈り、見えない神様の住まう社を建てる。
目に見えない神様に祈る心は、同じく目に見えない、だけれどとても大切なことを思う気持ちにつながります。それは人の心です。私が社頭で、あるいは講演でいつもお話するのはこのことです。
令和6年は辰年と龍にあやかり、皆さんの想像力で、それぞれの幸福が形になりますことをお祈りしております。
今年もよろしくお願いします。