常陸國總社宮

神職日記|4人が語る、神様と暮らす日々。

弁財天とダブル浅野

4月から桜美林大学で非常勤講師として「南アジア研究」という授業を担当しています。

「南アジア」という地域を地理や歴史、政治など、いろいろな角度から見ていく内容になっています。1コマ100分の授業を2コマ連続なので、なかなか準備が大変です。

南アジアで一番の大国と言えばインド。それ以外にはどこの国があるでしょうか?学生さんに尋ねると、やはり答えはまちまち。常陸國總社宮の巫女さんたちに尋ねても同様でした。正解はインドのほか、パキスタン、バングラデシュ、ネパール、ブータン、スリランカ、モルディヴの7か国。授業を履修している学生さん24人の中に、このうちどこか1カ所でも行ったことがあるか尋ねたら、答えは皆無。私が学生だった時代とは大分事情が違うとしても、南アジアはまだまだ日本から遠いところのようです。

先日の授業ではインドの宗教を主な話題としました。

1881年から10年ごとに行われるインドの国勢調査(センサス)。現時点で最新となる2011年の結果によればインドには12億人もの人々が住み、そのうち79.8%がヒンドゥー教徒として数えられました。

ヒンドゥー教と神道は双方とも神様がたくさん存在する「多神教」の仲間。さらにヒンドゥーの神々の中には仏教を介して、日本でもなじみのある神様として輸入されています。

例えば七福神の一人である弁才天(弁財天)は元来、サラスヴァティ―という女神。古代にインダス川の東方を流れていた同名の川を神格化したものです。宮崎駿さんの『千と千尋の神隠し』でも川の神様が登場しますね。日印双方とも、川を神様として崇める文化を共有しています。

常陸國總社宮の氏子の一つ、金丸町の山車は上部に弁財天を頂いています。最初の写真は雑誌『Pen』の仕事でよくご一緒したフォトグラファーの殿村誠士さんに平成24年に撮影していただいた金丸町山車の弁財天です。

一方こちらはヒンドゥー教のサラスヴァティー。もともと同じだったとはいえ、大分趣きが変わりましたね。浅野温子さんだったはずなのに、いつの間にか浅野ゆう子さんになってしまった、と言ったら分かりやすいでしょうか。全然分からないですね(笑)。

ヒンドゥー教の女神「サラスヴァティ―」

 

サラスヴァティ―はもともと弁舌や学問、芸術、特に音楽を司ることでこの字を当てて漢訳されました。それが転じて財をもたらすということで弁才天から弁財天という字を書く場合も多くみられます。有名な江の島の弁天さまも「財」の字を用いているようです。ちなみにサラスヴァティ―の持つインドの弦楽器「ヴィーナー」は琵琶の語源とされたりもします。

その他にも大黒さまはシヴァ、帝釈天はインドラなど、インドからやってきたとされる神様はたくさんいらっしゃいます。大黒さまは「大国」の文字も「ダイコク」と読み得ることから国津神の代表である「大国主神」「大国主命」と同一視されました。と、すると常陸國總社宮でもお祀りしていることになります。とはいえ破壊を司るとされるシヴァと、因幡の白兎の神話に登場する優しいオオクニヌシとでは、随分性格が違っています。

ちなみに、英語で神様と言えば普通はGodと言いますが、これは必ずしも適切ではありません。Godはあくまでもキリスト教的な一神教の神格を言い表す言葉。キリスト教文化圏の人に神道を英語で説明した際に「オオクニヌシというGodが…」などと言ったら「Oh, my God」的な誤解を生んでしまいます。彼らにとって「God」は当然一人だからです。この場合、直訳的には神格、などと訳されることもある「Deity」を用いるのがよいと思われます。

これならば浅野と言えば温子さん一人だったはずが、ゆう子さんが隣にいてもいいかな、という発想になると思います。(ならないという説もあります)

浅野温子さんは『古事記』などの神話の読み語りをいろいろな神社で行われていますから、きっと私の支離滅裂な気持ちを分かって下さると思っています。

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